東京地方裁判所 昭和41年(ワ)3328号 判決 1967年4月15日
原告 東洋土地建設株式会社
右代表者代表取締役 本橋忠七
右訴訟代理人弁護士 安藤信一郎
被告 立花清之助
<ほか一名>
右被告両名訴訟代理人弁護士 森虎男
主文
一、被告立花清之助は原告に対し、別紙物件目録記載の(一)ないし(三)の土地、家屋についてなされた東京法務局練馬出張所昭和三九年七月一〇日受付第二九、八四一号停止条件付所有権移転仮登記の本登記手続をしなければならない。
二、被告らは原告に対し、別紙物件目録記載の(三)の家屋を明け渡さなければならない。
三、被告立花清之助は原告に対し、昭和四一年四月二四日から前項の家屋明渡ずみに至るまで一ヶ月金二〇、〇〇〇円の割合による金員の支払をしなければならない。
四、原告の被告立花清之助に対するその余の請求を棄却する。
五、訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
第一、当事者双方の求める裁判
一、原告(請求の趣旨)
主文第一、第二、第五項と同旨および「被告立花清之助は原告に対し昭和四〇年九月一日から第二項の家屋明渡ずみに至るまで一ヶ月金二〇、〇〇〇円の割合による金員の支払をしなければならない」との判決ならびに第二、第三項に限り仮執行の宣言。
二、被告ら
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二、当事者双方の主張
一、原告(請求原因)
(一) 昭和三九年七月八日、被告立花一夫は訴外東京三協信用金庫から金融を受けるため、同金庫との間で証書貸付、手形貸付、手形割引、当座貸越等継続的貸付契約を締結し、被告立花清之助は、右訴外金庫との間で、右契約により被告立花一夫が同金庫に対して負担することあるべき債務につき連帯保証契約をなし、さらに被告立花清之助所有の別紙目録記載の土地家屋(以下本件土地、家屋という)に対する債権元本極度額金二、〇〇〇、〇〇〇円の根抵当権設定契約および被告ら両名が債務の弁済をしないときは訴外金庫において弁済に代えて本件土地、家屋の所有権を取得することができる旨の代物弁済予約(但し形式は停止条件付代物弁済契約)を結び、本件土地、家屋につき、東京法務局練馬出張所昭和三九年七月一〇日受付第二九、八四〇号をもって根抵当権設定登記、同出張所同日受付第二九、八四一号をもって停止条件付所有権移転仮登記を経由した。
(二) 昭和三九年七月一八日訴外金庫は被告立花一夫に対し金二、〇〇〇、〇〇〇円を、利息は日歩金二銭七厘の割合、債務不履行の場合の遅延損害金は日歩金六銭の割合、元金の弁済は昭和三九年九月から同四一年八月まで毎月末日限り金五〇、〇〇〇円宛、同年九月から同四二年八月まで毎月末日限り金六六、六六六円(但し最終は金六六、六七四円)宛、分割してなすこと、但し、右弁済を一回でも怠った場合は期限の利益を失い、残額一時に弁済すること等の約束で貸与し、被告立花清之助は被告立花一夫の右債務につき連帯保証をした。なお右貸借当日被告立花一夫は訴外金庫に対し、昭和三九年八月末日までの利息を前払した。
(三) ところが被告らは右債務を全く弁済しなかったので、昭和三九年九月末日限り期限の利益を失い、訴外金庫に対し、金二、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する同年九月一日以降少なくとも日歩金二銭七厘の割合による利息ないし遅延損害金を一時に支払うべき義務が生じ、昭和四〇年七月一九日現在でその債務金額は二、一七三、八八〇円となった。
(四) 同日訴外金庫は原告に対し、訴外金庫の被告らに対する前項記載の債権および第一項記載の代物弁済予約完結権を譲渡するとともに被告らに対し、同月二九日付、同月三一日到達の内容証明郵便をもって右譲渡の通知をなし、かつ、原告のために東京法務局練馬出張所昭和四〇年一一月八日受付第五二、七九九号をもって第一項記載の停止条件付所有権移転仮登記移転の付記登記を経由した。
(五) そこで原告は被告立花清之助に対し、昭和四〇年九月一七日付、同月一八日到達の内容証明郵便でもって前記債権の弁済に代えて本件土地、家屋の所有権を取得する旨代物弁済予約完結の意思表示をした。
(六) 以上の結果原告は本件土地、家屋の所有権を取得したので被告立花清之助に対して前記仮登記の本登記手続を求め、また被告らが依然として本件家屋を占有しているので被告らに対してその明渡を求め、かつ被告立花清之助に対して昭和四〇年九月一日から右明渡ずみに至るまで一ヶ月金二〇、〇〇〇円の割合による賃料相当の損害金の支払を求める。
二、被告ら(答弁)
請求原因(一)、(二)項の各事実は認める。同(三)項のうち、被告らが原告主張の債務の支払をしなかったことは認めるが、その余の事実は争う。同(四)項のうち被告らが原告からその主張の内容証明郵便を受け取ったことは認めるがその余の事実は不知。同(五)項の事実は認める。
第三、証拠≪省略≫
理由
一、請求原因(一)、(二)項の事実は当事者間に争いがない。
二、被告らが請求原因(二)項の分割債務の弁済を一度もしなかったことは当事者間に争いがないから、被告らは昭和三九年九月末日限りで分割弁済の期限の利益を失い、訴外東京三協信用金庫に対して金二、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する同年九月一日以降少なくとも日歩金二銭七厘の割合による利息ないし遅延損害金を一時に支払うべき義務が生じたものというべきである。
そして≪証拠省略≫によれば昭和四〇年七月一九日現在で右債務額は金二、一七三、八八〇円であったところ、訴外東京三協信用金庫は原告に対し右債権およびこれに随伴する請求原因(一)項記載の根抵当権、代物弁済予約完結権を譲渡したことが認められ、訴外金庫から被告らに対して昭和四〇年七月二九日付同三一日到達の内容証明郵便をもって右各権利譲渡の通知がなされたこと、原告が被告立花清之助に対し同年九月一七日付同月一八日到達の内容証明郵便で右債権の弁済に代えて本件土地家屋の所有権を取得する旨の代物弁済予約完結の意思表示をしたことはいずれも当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、その後、東京法務局練馬出張所昭和四〇年一一月八日受付第五二、七九八号をもって請求原因(一)項記載の停止条件付所有権移転仮登記移転の附記登記がなされたことが認められる。
三、ところで、不動産に関する代物弁済予約上の権利が仮登記によって保全された場合に、右予約上の権利の譲渡を予約義務者その他の第三者に対抗するためには債権譲渡の通知のみをもっては足りず、仮登記に権利移転の附記登記をする必要があるものと解すべきであるから、前記のとおり、原告が前記代物弁済予約完結の意思表示をした当時は、予約完結権の譲渡につき、譲渡人たる訴外金庫から被告立花清之助に対し債権譲渡の通知がなされていたのみで、右権利保全のため本件土地、家屋につきなされていた停止条件付所有権移転仮登記の移転の附記登記はまだなされていなかった関係上、対抗要件を具備していなかったものというほかなく、従って原告は有効に予約完結権を行使したものとは云い得ない。
四、しかしながら、原告は右対抗要件が具備した後である昭和四一年四月一四日本訴を提起し、被告立花清之助に対して前記仮登記の本登記手続および本件家屋の明渡を求めており、この中には予約完結の意思表示が包含されていると解せられるから、原告は本件訴状副本が被告立花清之助に到達したこと記録上明らかな同年四月二三日をもって本件土地、家屋の所有権を取得したものというべきである。
五、しかして≪証拠省略≫および弁論の全趣旨によれば被告ら両名が従前から引続き本件家屋を占有していること、本件家屋の賃料は少なくとも月額金二〇、〇〇〇円相当であることが認められる。
六、そうすると被告立花清之助は原告に対し、本件土地、家屋について前記仮登記の本登記手続をなし、被告ら両名は原告に対して本件家屋を明け渡し、かつ被告立花清之助は昭和四一年四月二四日から右明渡ずみに至るまで一ヶ月金二〇、〇〇〇円の割合による賃料相当の損害金を支払う義務があるものといわねばならないから、原告の本訴請求は右の限度で正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却を免れない。
よって訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用し、本件の場合、仮執行宣言を付することは相当でないと考えるからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤安弘)